クッキーとリップグロス

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 「これ買ったら割引券出るとかだったし、似合いそうだから買った。あげる。」

 元恋人がそう言って手渡してきた袋を今日になってやっと開けた。いつぶりだろう、プレゼントをもらうだなんて。付き合ってたころの最後のクリスマスはプレゼントなんてなかったし、9月から会うこともしてなかったからプレゼントは高校2年生の誕生日以来かもしれない。

 割引券…たぶん私がアルバイトをしていたチェーン店の薬局でよく実施されてる『○○の化粧品を買ったら割引券が出ますよ』の企画に踊らされたんだろう。わかるよ、その気持ち。元店員の視点で言うなら賢いお買い物してると思う。

 彼の食事は主にカップ麺らしく、最近は何回目だよと言いたくなるがダイエットを始めているらしい。食べないことのほうが多くて食べたとしてもヨーグルトだとか。あの薬局は安いし割引券も手に入れるなんてお利口さんじゃない。

 このクッキー、シナモンの風味がして美味しいから大好き。高校生のころはシナモン風味のものばかり好んで食べてたなぁと思いだした。リップグロスも私が前に使ってたメイベリンの口紅と似た色合いだ。あなたよく覚えてたね。

 そんなことをいまさら思った。もらったときは気の利いたことなんて言えなくてあっさりとした、悪く言えば冷たい反応だったかもしれない。

 「へー、珍しいね。ありがと。」

 そう言って雑な動きで鞄に入れてしまった。今日までもらったこと忘れてたよ。

 日常的な買い物をしている最中に私のことを考えて商品を選び、かごに入れて買い物をしたんだね。複雑な気分。嬉しいというので正解なんだろうか。口に出していうとしたら「バーカ」しか出ないや。

 もらったクッキーは最近寒いしココアと美味しくいただこう。リップグロスも私が好きな色だしお出かけのときにでも使わせてもらう。ありがと。でもなんとなくごめんねって思った。

許可が出ました。

 「二度目はない」と言われていた電車で肩を貸してくれる探検くんの気遣いが昨日の電車でも私を助けてくれた。もしかしたら今回の気遣いって無理をしたのではないか?という不安が湧いてきたので本人に尋ねることにした。でも素直に「肩借りていいの?無理してなかった?」と訊いて「無理してた。」なんて言われたら私は立ち直れない。自分を守る意味も込めて感想を述べることにした。

 

「探検くんの肩の寝心地の良さは異常。」

「俺でよければ肩貸しますんで、今後も仲良くしておくれ。」

 

 いいらしいです。許可を得た。今後も肩借りるし仲良くしてくださいな。

女子らしい

 「女子としてノーカン」と言われたのは今年の3月の話だ。私と探検くんは部活で出会ってかれこれ7年以上の付き合いで、そのころはちょうどNo.9展に行く約束をしていた時期だった。仲良くしてる友人グループ5人の中に私たちは含まれているのだが毛だるまというなんでも色恋に繋げたがるキョロ充がいる。彼が「そもそもお前らは付き合わないの?」と尋ねたときに冒頭の言葉が探検くんから出てきた。

   言われたときは「なんでだよ!」と笑いつつも少し複雑な気持ちになっていた。別に私自身は性別に迷ったりしていないし、気持ちも体も女性なわけだ。それを「ノーカン」だと言われると私のプライドというか何かが傷つく。でも私たちの関係性を考えるとそれはとても都合が良くて程よくぬるい間柄かもしれない。そう思いながらこの数ヶ月を過ごしてきた。その間は動物園、水族館、スイパラ、ランチ、居酒屋巡り、ライブ、朝までカラオケなどなどたくさん遊びまわったし学生時代にはなかった自由を手に入れた私たちは月に1回は会っていた。

   仲良し友だちグループで大牟田の遊園地に行ったとき、博多方面から来ていたのは私と彼だけだった。遊び疲れて帰りの電車では2人とも眠りそうになっていた。

 「眠い?」

 「…かなり眠い。」

 「俺も眠い。肩貸そうか?」

 「…借りる……( ˘ω˘ ) スヤァ…」

 迷うことなく探検くんの肩をがっつり借りて私は眠ってしまった。

 その日の夜にLINEをしていて「あまりにも首が辛そうだったから思わず言っちゃった感あるね💦たぶんもう二度とない」と言われて(あぁ、私はまた嫌われるようなことをしてしまった。)ととんでもない不安に苛まれた。でも話してみると違っていて『自分だって男だし、お前は無防備すぎる。さすがにビビった。』という感想を抱いていたらしい。

 ここで出る矛盾。『私は君から見ると女子ではないんじゃないのかい?』という疑問がわいた。ノーカンの私が寄り掛かって寝てもいまさら思うことなんてないでしょ…。とは思うけれど性別を意識してくれたのはよかったのかもしれないと思った。

 今日も大牟田まで遊びに行き、帰りの電車で私は気づいたら彼の肩を借りて眠っていた。冬だから体温も程よくてコートがもこもこでとても寝心地がよかった。博多駅はクリスマスのイルミネーションで彩られていて、あたり一面に幸せそうな空気を出している人間が散らばっていた。あまりイルミネーションをじっくり見たことがない私と探検くんは特にこれといった用事もないし目的もなかったがクリスマスマーケットを散策し、イルミネーションを見て回った。

 「今年が初めてかもしれん。」

 「何が?」

 「いや、女子と一緒にクリスマスっぽいことしたの。新鮮」

 どうやら私は女子カウントになったようだ。女子としてカウントするの?と尋ねると笑いながら女子だったという答えを返してきた。

 帰るときにバス停まで送ってもらい、そのときにお菓子を貰った。家に帰って気づいたけれど「あなたは女子です…」と油性ペンで書かれていた。何わかりきったこと言ってんの、バーカって思ったけれどフフッと笑ってしまった。

 探検くん、これからのお出かけは女子としてカウントしてね。

 

後日談(帰りの話)

 髪をグレー系に染めた元恋人から「れむが使ってたハンドクリームの匂い覚えた。印象残すのが本当に上手だよね。」ってLINEが来てた。ローズとジャスミンいい匂いでしょ。本当は違う匂いのも持ってるけど後々、君が思い出してダメージを受けますようにって願いも込めて同じものを塗ったんだ。ざまぁみろ。

 「久しぶりにおそろいのものを持った気分」と言って米津玄師のキーホルダーを指で弄んでたけれど、それはあとから君を苦しめると思う。たくさん苦しんでね。

 髪の色をお前が変えても私は何も変わらずいつもと同じハンドクリーム使ってる。お前がキーホルダーを見て私を思い出しても私は楽しかったライブを思い出して音楽に身を寄せる。私は何も変わんないよ。変わったのはお前だし、変わるのもお前だ。

元恋人に会いに行く話

 「イヤリングいつ取りに来る?」のLINEは復縁を迫られてお断りしたあとに届いた。8月に会いに行ったんだけどそのときに買ったばかりだったイヤリングを私は彼の家に忘れてしまっていた。あー、あのときは会いに行くので嬉しくて1番いい服、イヤリング、髪留めってしてたもんなぁと数ヶ月前だけど当時の自分が妙に可愛く思えた。

 でもイヤリングを口実になんとか会おうとしてる元恋人に薄ら寒いものを感じた。必死すぎじゃないかなって。そして何度も「着払いで郵送して」と言った。それでも取りに来てほしそうにする元恋人。「好きだから困ってる」だってさ。その必死さをもっと前に出してほしかったな。

 結局、一度好きになった人のワガママはつい聞いてしまうのが私の悪いところだった。何度も断り続けると私には罪悪感がたまる。今日の朝早くに家を出て小倉まで行ってきた。

 結論から言うと私はもう彼に対して上に重ねる気持ちを持つことがなかった。会ったらもしかしたら揺らいでまた追いかけだすんじゃないかって思ってたんだけど。会ってイヤリングを受け取って、米津玄師のライブでかぶってしまったキーホルダーをあげて、くだらない話をしてクスクス笑って。媚びを売るわけでもなくお互いに好きなことをしてケーキを食べてコーヒーとココアを飲んで帰る。会話なんて続くものでもない私達はポツポツと話したいことを落とし合うだけなんだけど復縁を断ってもそこに妙な気まずさがなくて安心した。この空気がたぶん私には居心地がよくて、かけがえのないものだったんだろうなぁとつくづく思う。二酸化炭素なのになんでここまでいい気持ちになるんだろうと付き合っていたときはよく考えてた。けれどこれは元恋人との間だけにあるものじゃなくて他の人とも作ることができるってこの数カ月で私は気づくことができた。だからこそ、元恋人のところに戻ろうとは思わなかったんだろうね。

 「髪染めに行くからそろそろ帰ろっか。」と言われるまで時間を忘れて喫茶店に居座ってた。ふと時計に目を落とすと来店して6時間近く経っていた。なんて迷惑な客だよ。

 「あら、染めるの。何色に?」

 「グレーかな。」

 「そっか。」

 「あのさ、前言った話なんだけど…」

 あぁ、とうとう避けてきた復縁云々の話をされるんだなって思ったし私の嫌な顔も彼に伝わったようだった。言葉が続かなかったようで「なんでもない」と言われてホッとした。「もう会うことないかもしれないけどちゃんと大学卒業してね。」が最後の挨拶かなぁと思っていたけれど迷いに迷って

 「せっかく黒が似合うのに染めるんやね。前に言ったことあるけど私ね、あなたの黒い髪がすごく好きだったんよ。」

 少し困ったように笑われたけどたぶん私も同じような顔してたと思う。

 今日から彼の髪の色は私の好みでもないグレーになるし、私は彼と会った今日を終えて明日からいつも通り仕事をしてる。私達の日常は今日という1点の数時間だけ交わったけれど今後は交わることなく進んでいくんだろうなと帰りの電車の中でこの文章を書きながらふと思った。

ヨリを戻す

 復縁を表す言葉は世の中にたくさんあって「ヨリを戻す」が直近で聞いた言葉だ。私はこのヨリを戻すという言葉がどうも嫌いらしい。「切れていた縁が再び繋がること」をヨリを戻すだとか元のサヤに収まると表現することは週刊誌でも定着してるし私達の身の周りでも転がっていたりする。

 切れていた縁を再び繋げるを脳内でイメージすると私は切れた糸同士を結びつけて繋げてるようなものが浮かぶ。それは果たして元通りなんだろうか。綺麗な1本の糸ではなく結び目がある糸になったとき、その縁は本当に綺麗なのかな。

 人間の関係は一度崩れると元通りになんてならない。その崩れた関係の上に新しい関係を積み上げていくのだと思う。崩れたことはなかったことになんてできないんだよ。接着剤でくっつけたお茶碗だって接着剤ついてるから元通りじゃないんだ。人間関係だったらそこに月日まで加わる。月日の情報量はとてつもなくて、過ぎ去っていった日々の一秒一秒に感情が宿ってるんだもの。

 元恋人から「ヨリを戻せないかな」と言われた。私は断った。元通りなんてないんだよ。彼が彼女と別れてないとかそんなことさておきだ。だってそれでも手に入れる自信と負けない気持ちがあったから。付き合うことになったら絶対にモノにできるという確信があった。やっとのことで言わせた復縁に向かう言葉なのに私は即答で「ごめん、できない」と言っていた。おかしいな、好きだったはずなのに。

 気持ちというのはどうしようもなくて彼を嫌いになることはできなかった。じゃあ好きなの?ときかれると「好きだった」がベストアンサー。彼に対する気持ちはどうやら動けなくなったらしい。嫌いにはなれないし好きにもなれない。つまり終わってたんだと思う。崩れた私達の関係は「彼は恋人と別れていないが復縁したい。しかし、私が彼のことを好きにも嫌いにもなれない。」で完結したのかもしれない。あーあ、本当に大好きだったのに。完結した人間関係には上乗せもできない。元通りも何もあったもんじゃない。重ねてきた気持ちを元通りにするなんて今まで重ねてきた私の気持ちを軽く見ないでちょうだい!って思った。続編なんて作り出せないや。元恋人は元恋人のまんまで終わります。だから幸せになってなんて思わないけど生活はこれからも交わらないよ。本当に大好きだった。

借りること

 貸すのも少しいいかもと思ってきたけれどそれにはもう一つ理由がある。貸してもらうことが嬉しいと感じるようになったからだ。

 私は自分がほしいと思ったものだけを自分で手に入れることが一番楽しいんじゃないかと思ってた。でも親しい人が「これ自分も好きなんだけど君が好きそうだと思って。」と言いながらお勧めの本やCDを貸してくれたときすごく嬉しかった。私のことを考えてその本やCDを好きそうだと思ってくれてるのは私のことをよくわかってくれてるからだろうし、親しい人が好きなものを貸してくれたってのも嬉しくなる。その人を構成する一部を借りたような気持ち。相手はそこまで思ってないだろうけれど。

 お互いに自分を構成してる一部を貸し借りすると距離が縮まったような気分になる。少なくとも私は親しい人にしかそんなことしないけど。ただ最近、お互いに貸し借りをし過ぎて好みが似てきてしまったのは困りものかもしれない。「えっ、そのCD私も買ったわ。」「それ言ってくれれば俺の貸せたのに。」が多発してる。でも全部を知り尽くしてるわけではないからまだまだ貸し借りしていこうねって話で纏まった。